読書記録<本を書く>

アメリカの作家アニー・ディラードによるエッセイ.

本を書く

本を書く

題名の通り,本を書くことについて著者の考えや経験などが記されている.しかし,具体的にどう書けば良いのかといった方法論を述べているわけではない.本を書く際の心構え,精神のあり方を述べている.

中でも,私が心を引かれたのは,作家にとって実質性が重要だという主張だ.
ひとつのエピソードが語られている.
著者は,ある大学の文学部のオフィスで本を書いているとき,コーヒーを飲むためにお湯を沸かしていた.しかし,それを忘れて,やかんを焦がしてしまった.次からは,洗濯ばさみで自分の指をはさんで,お湯を沸かしていることを忘れないようにしたという.こうして著者は,自分を現実世界に留めておいた.
これが,著者が云うところの,作家は実質的基盤を欠いているということなのだろう.

三島由紀夫も,作家を志す者は,実質的生活を目指した方が良いと云っている.センチメンタルで脆弱な精神は作家には向かないから,まずは現実世界で生きていくことを大事にせよというわけである.



話は変わるが,昨日は大学院博士課程の入試であった.待ち時間の間,私は読書をしていた.修士課程の試験の時にも,待ち時間は読書をしていた.修士の試験のときには,遠藤周作の『海と毒薬』を面接の直前に読了した.『海と毒薬』は,戦時の日本が舞台で,捕虜になった米兵を生きたまま解剖せよと命じられた男の話である.陰鬱な物語だったと思う.読書の影響を引きずったまま,陰鬱な気分で面接に臨んだことを覚えている.
昨日の博士課程の試験では,禅に関する本を読んでいた.禅とは何であるか,禅の精神とはなにか,という内容である.禅問答の難解さに頭を悩ませながら,面接に臨むことになったのであった.

海と毒薬 (新潮文庫)

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