夏休みの宿題

小学校・中学校時代の話はあまりよく覚えていないが,高校時代,夏休みの課題はかなり後半にならないと手をつけないという悪癖があった.
特に大変だったのは,数学であり,数研出版の青チャートから指定された問題を百問ほど解かなければならなかった.幸い,数学は得意科目であったので,2,3日のあいだ,朝から晩まで解き続ければ,どうにか終わらせることができた.
そういうとき,数学の世界から日常に戻ってくると,妙に頭の処理速度が上がっているのを感じたものである.ちょうど,高速道路から一般道へ移ったときの,速度感覚のようなものである.
数学が終わっても,まだまだ理科や国語,英語の課題が山ほど残っていた.それらを,残り数日のあいだにすべて片付けねばならない.徹夜で化学の問題80題を解いたこともある.
いま思えば,なんとも不真面目な勉強態度であった.

その悪癖が,大学に入ってからも続くのである.もっとも,大学には夏休みの宿題などないが.
たとえば,英作文の課題が出る.800語程度の自由作文だが,これを徹夜で書いて,ほとんど推敲することなく提出し,そのまま一日5コマの講義に出席したものだ.800語というと,A4で2枚程度である.いまなら,論文1本で7000〜9000語くらい書くのは当たり前の状況(かなり苦労するが)だが,学部1年生くらいでは,800語の作文は正直つらかった.大学入試の英作文でも,それほどの長文は書かない.

さて,いまその悪癖はどうか?
大学院では,宿題などは存在しない.一応,研究テーマという課題はあるが,これさえ,数年(通常3〜4年,長いと6年)かけて取り組む.在学後半になってから取り組み始めたのでは,学位を取得できずに退学になる.
いまのところ,毎日研究に勤しんでいるが,果たして,これを以て悪癖が治まったと云えるか.
怪しいものである.(学位は修業年限内に取得したい.幸い,4年ある)

最近の読書記録をしておく.どうにも軽いもの(純文学に対して,という意味.作品の軽重ではない)ばかりで,なんとなく情けなさを感じなくもないが,そういう作品を読みたい気分なのだから仕方あるまい.

まず,鎌池和馬『ヴァルトラウテさんの婚活事情』.

北欧神話を題材に,ヴァルトラウテさんという戦乙女(ワルキュリエ)と,人間の少年の恋を描いたもの.周囲も巻き込んで,ドタバタラブコメの様相を呈する.個人的には楽しめた.作者の鎌池先生は,『とある魔術の禁書目録』シリーズで有名である.ほかに『ヘヴィオブジェクト』シリーズや,本作のような独立した作品がいくつかある.とあるシリーズを進めながら,さらに他の作品を執筆する力があるわけだから,非常にすさまじい執筆スピードである.鎌池先生は,仕事がお好きらしく,執筆はおそろしく早いという話はwikipedia等にも記載されているので,興味があれば一読願いたい.このあたり,京極夏彦大先生に通じるものがあるのかもしれない.

次は,芝村裕吏マージナル・オペレーション』.既刊2巻である.

マージナル・オペレーション 01 (星海社FICTIONS)

マージナル・オペレーション 01 (星海社FICTIONS)

マージナル・オペレーション 02 (星海社FICTIONS)

マージナル・オペレーション 02 (星海社FICTIONS)

ニートの主人公が,民間の軍事会社で傭兵になるというお話.細かな点まで書き込まれていて,かなり丁寧な造り,しかもストーリーも面白い.第1巻はユーラシア大陸を,第2巻は日本を舞台にしている.

次いで,至道流星大日本サムライガール』.既刊2巻.

大日本サムライガール 1 (星海社FICTIONS)

大日本サムライガール 1 (星海社FICTIONS)

大日本サムライガール 2 (星海社FICTIONS)

大日本サムライガール 2 (星海社FICTIONS)

なんともインパクトのあるタイトルである.ヒロインの女子高生・神楽日毬は,独裁者として日本政治の頂点に立つべく,街頭演説をしている.当然,誰にも見向きもされない.そんな姿を,広告会社蒼通(電通のパロディだろう)主人公・織葉颯斗が発見する.颯斗は,会社を辞め,日毬をアイドルとして売り出すべく,プロダクションを設立するのであった.作者の至道先生は,会社経営者であり,経済・企業経営に造詣が深い.その知識を存分に生かした作品である.私は経済・起業などにはそれほど興味がないのだが,本作を読んだら,なんとはなしに経済の勉強をしてみようかと思った.

それから菱田愛日『TOKYO GIRL'S LIFE』.

仕事一筋のキャリアウーマン,恋愛をゲームのように楽しむOL,夢を諦められないフリーターの3人の女性が主人公.三者の価値観は,時に対立し,時に一致する.価値観は人それぞれであるけれども,信奉する価値観によって生き方がずいぶんとことなることを,三者の比較により明確に見ていける作品.あっさり読めて,好感の持てる小説である.メディアワークス文庫は,設立されてまもなくのころ,存在感が薄く,これといった作品もなかったように思うが,最近は,ずいぶんと存在感を増してきた.今後も良作を期待したい.

軽いものばかりという中にも,司馬遼太郎『殉死』を読んだのを忘れていた.

新装版 殉死 (文春文庫)

新装版 殉死 (文春文庫)

明治の軍人,陸軍大将伯爵乃木希典について書かれたもの.作者は冒頭で,これは小説以前の書きもの,作者自身の思考をたしかめるために書いたもの,と述べている.乃木希典の生涯を,軍歴から宮廷伺候,自刃にいたるまで描く.乃木閣下は,晩年陸軍大将,伯爵という栄誉ある地位にあったが,質朴な生活を続けていたというのをどこかで読み,その人となりを知りたく本書を手にとったのであった.閣下が,明治帝崩御ののち殉職するというのはよく知られた話であるが,なぜそのような行動をとったかを,作者は教えてくれる.作者は,終始乃木閣下は軍人としては愚将であったと評価する.確かに,軍事の才能には恵まれなかったようである.が,その修行僧のような生活,自らを戒め,ときに自己規律のあまりの厳しさに自死しようとする凄烈な人格に,私は感激した.加え,閣下には,詩人としての才があったという.その点にもまた,私は深い感慨を覚えた.

長くなってしまった.以上.