竹宮ゆゆこ礼賛

竹宮ゆゆこと云う作家がいる.
代表作としては,『とらドラ!』がある.
竹宮氏は,女性的な豊かな感性によって,絶妙の青春劇を描く.

近作に『ゴールデンタイム』があるが,これは清々しい青春の香りがする.饒舌な文体で,登場人物の心理を豊潤に描く様が実に爽やかである.

竹宮氏の作品は,『わたしたちの田村くん』,『とらドラ!』,『ゴールデンタイム』のすべてに渡って,若い人々の恋愛劇を描いている.いずれの作品も,奔放な語り口であるが,その自由闊達な文章の中に,登場人物たちの細かな心の機微が巧みに織り込まれ,恋と云う不可解な現象に揺れ動く若者が生き生きと立ち現れる.読後の爽快感は,他の小説を抜いて一層透明感のある心地がする.

上に挙げた作品は,ライトノベルの範疇である.ライトノベルと云うと,手軽に読める軽快な作品が多い.ともすれば,文学的重厚さを欠くかもしれぬ.それは,対象読者が若年層であり,また,ライトノベルと云う名称が表すとおりに,軽いものであるからやむを得ない.むしろ,その軽さがために,殷賑を極めているとも云える.岸辺に押し寄せる波の如くに,次々と新たな作品が世に出るが,やはりその品質は様々である.そのまま,何事も残さずに沖に戻る波もあれば,きらりと輝くものを残してゆく波もある.

ひしめき合う作品群から,優れたものを見いだすのは困難である.実地に多くの作品に触れて,自ら好むところを見いだしてゆくしかない.玉石混淆の作品群の中に,輝くものを見いだせたならば幸運である.ただ,その輝きは,三島作品のような重厚な輝きではなく,もっと若々しく軽快なものであり,ときには眩しいものであるかもしれぬ.

私にとって,竹宮氏の作品は,若い輝きである.美しい玉石である.
氏の作品は,爽やかな風であり,清冽な流れである.精神を爽快にし,生活を豊かに潤すのである.