読書記録<琅邪の鬼>

講談社の第44回メフィスト賞受賞作.

琅邪の鬼 (講談社ノベルス)

琅邪の鬼 (講談社ノベルス)

始皇帝時代の中国,港町の琅邪(ろうや)を舞台にした歴史ミステリィ
素材が珍しいことと,古代が舞台とあって,不可解な事件が起きてもリアリティを失わないところがすばらしい.
古代中国の庶民の生活については,資料が少ないために,あまり詳しく知ることはできないらしい.作者の丸山天寿氏は,古本屋を本業としていて,資料集めには苦労しなかったようだが,執筆にはかなり苦労したという.作中に生き生きと描かれた庶民の姿を読めば,その苦労も報われたと云えるだろう.

文体は簡潔で読みやすい.
やや抑揚を欠くのかもしれないが,淡々と物語は進み,不可解な謎も合理的に説明される.アクションもあり,謎解きも緻密,いわゆる蘊蓄も豊富,完成度が高いだけでなく,小説としてもおもしろい.

続作として『琅邪の虎』『咸陽の闇』が出版されている.
丸山天寿氏のブログによると,これらの作品は「邪馬台国」シリーズの序章であり,氏は壮大な構想を持っておられるようだ.楽しみである.