読書記録<女子校育ち>

女子校育ち (ちくまプリマー新書)

女子校育ち (ちくまプリマー新書)

辛酸なめ子氏による女子校解体新書.インタビュー,座談会,同窓会・文化祭潜入を通して,女子校出身者の生態をつまびらかにする.

私は幼稚園以来ずっと男女共学であったので,男子校・女子校といった学校の雰囲気は知らない.大学入学後に,そういった学校の出身者が周囲に多くいたので,なんとなくは感じられた.

女子校とひとくちに云っても,やはり学校によって個性がある.本書の冒頭では,まず女子校をタイプ別に分類している.少し抜粋すると以下のようである.

勉強系
桜蔭お茶の水女子大付属・フェリス・洗足・江戸川女子

ニュートラル系
東洋英和・品川女子・跡見・昭和女子・恵泉・和洋九段

お嬢様系
雙葉・白百合・清泉・学習院女子・聖心

聞き覚えのある学校を拾ってみただけである.この括りは大まかなもので,もっと細かく分類できるようだ.すなわち,白百合はお嬢様,学習院女子は深窓お嬢様,東洋英和はモテ系,跡見は良妻賢母,……のようにである.

著者もまた女子校の出身者であり,女子校出身者はお互いにその事実を見抜く力があると述べている.女子校出身者同士は,女の扱い方を良く心得ているので,接するときにも苦労が少ないと云う.しかし,共学出身の女性に対するときは,身構えるらしい.共学出身の女性は,同性はライバルだと考え,アグレッシブなオーラを出しているのだそうだ(もちろん,男性を巡ってのことだろう.個人差があると思う).

私立の女子校に在学していると云えば,「お嬢様」というイメージを持たれると著者は云う.しかし,実態は必ずしもそういうわけではないようである.各学校により教育方針は異なり,また,在籍する生徒の出自も異なる.最高峰のお嬢様学校は,かつて華族学校であった学習院女子で,まさしく貴婦人を養成するのにふさわしいと云う.真のお嬢様は,知性のみならず体力をも養うものであって,林間学校での遠泳や厳しい登山など,文武両道の健やかな体躯をつくることが重要視されている.こういった方針は,英国の上流階級の子息が通うイートン校等のそれとも一致している.また,皇室に妃を輩出した聖心や田園調布雙葉,あるいは四谷の雙葉もかなりの上流階級然とした雰囲気にあふれているようである.もしも,自分の生活レベルに合わぬ学校を選んでしまったら,在学中は不遇に過ごすことになる.しかし,卒業後はそこで得た人脈から恩恵を得ることもできるらしい.

親の財産に恵まれていれば,上記のお嬢様系学校を選ぶことが多いと云うが,ごく普通の家庭で「知力」を親から受け継いだ場合は,実力主義進学校に通うことが多い.桜蔭と云えば,東京大学に毎年70名前後の合格者を輩出する名門である.男子の開成,女子の桜蔭といったところである.

他にも,女子校でのいじめ事情,男子教師の扱われ方,恋愛事情などについて触れられている.いじめについては,スカートを襞にそって切るとか,鞄のなかから生理用品を取り出されて,赤マジックでいたずらされ机の上に放置されていたとか,なかなかに陰湿な事件もあるようだ.また,男性教師もいじめの対象になるのだという.たとえば,消しゴムのかけらを投げつけられたり,教卓の四隅に塩をもられたり…….

女子校は,女子しかいないという特異な空間であり,自然と男役・女役に分かれるのだという.男役の先輩(美形)などが,後輩から慕われることは良くあるらしい.私にも女子校出身の知人は多いが,そのうちの一人は,女子校時代に男役だったらしく,後輩たちに追いかけられていたと聞いた.あこがれの感情が,同性愛にまで発展することもあるのだという.志村貴子青い花』は,女子校を舞台にした瑞々しい恋愛漫画であるが,『青い花』で描かれるような状況が日常にあるのだろう.

以前取り上げた,桜庭一樹青年のための読書クラブ2011-10-01 - 対称な手前からには女子校特有の文化が描かれている.今野緒雪マリア様がみてる』シリーズも,カトリック系の女子校を舞台にしている.知人の女子校出身者に『マリア様がみてる』を読んでもらったところ,女子校の事情が大変良く書けていると喜んでいた.

知人の招きで,とある私立の女子校に行ったことがある.歴史ある学校で,校舎からはただならぬ雰囲気があふれていた.学校全体を見たわけではないけれども,厳かな大講堂や格調高い玄関ホールなど,圧倒であった.

本書を読み,女子校に対するイメージが変わったというよりも,むしろ周囲にいる女子校出身者から感じる独特の雰囲気の根拠を,言葉で捉えることができたと思う.彼女たちは,たくましい.心も体もたくましいのである.深窓のひ弱なお嬢様とか,おとなしい女性とか,そんなものは外部から見た勝手なイメージでしかない.優れた知力,強くしなやかな精神,女性性の強調というよりは同性を引き寄せる魅力,……彼女たちは,厳しい現実を強かに生きていくのである.

青い花 1巻 (F×COMICS)

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マリア様がみてる 1 (コバルト文庫)

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