読書記録<窓の灯>

窓の灯

窓の灯

第42回文藝賞受賞作.著者の青山七恵氏は,2007年に『ひとり日和』で芥川賞を受賞.

大学を中退したまりもは,喫茶店を営むミカド姉さん(実姉ではない)のところに身を寄せる.向かいのアパートに,青年が越してくる.まりもの部屋の窓からは,青年の部屋がよく見える.にわかに関心を抱き始めるまりも.青年のもとに彼女がきて夕食を作っていたり,ギターを奏でていたり,そんな様子をのぞき見る.ミカドは特別美人ではないにせよ,神秘的な雰囲気でおじさんたちを惹きつける.まりもの隣の部屋に,男を連れ込んだりもする.まりもは,壁に耳をあてて,子細を聞き漏らすまいとする.あるとき,ミカドが「先生」と呼ぶ人物が店を訪れる.ミカドは先生に好意をもっていると察知するまりも.ミカドと先生が仲良く話をしているのを見て,自分はのけ者にされていると感じ,ミカドは二人にいらだちをぶつける.淡々とした人々の日常をのぞき見ているはずだったまりもは,実は生々しく醜いものを見たかったのだと気がつく.

選考委員の田中康夫氏も述べているけれども,文章に清潔感がある.時々,「子宮が縮こまった」などと官能性が混ざってくる.まりもが他人の生活をのぞき見る様子を,それとは対照的な文章で描く.

書き出しからして,頭の中に映像を喚起する文章が上手い.登場するおじさんたちがいかにも汚らしいものと見えるように,上手に描けている.女性的視点の作品で,「子宮が縮こまる」とか「女の人ってこういうものだ」とか,了解した書き方が巧みだと思う.

物語の中に官能性が混じってくると,にわかに美しくなる.この官能性は,抑制的でなければいけない.やり過ぎると,ただの官能小説になってしまうだろう.