読書記録<ヘンリエッタ>

ヘンリエッタ

ヘンリエッタ

第43回文藝賞受賞作.

高校にも行かず,ひきこもりとなってしまったまなみは,「ヘンリエッタ」という家で,あきえ,みきとともに3人で暮らす.家から一歩も出ずに生活するまなみは,ドアの向こうの牛乳屋に興味を持つ.まなみは,たまに訪れる少年・ヒロトを相手にしながら,家事をして過ごしている.少しずつ外に出ようと,早朝の散歩に出かけたら,牛乳屋の少年・秋緒と出会ってしまう.はじめは緊張していたまなみも,次第に秋緒と話ができるようになる.やがて,まなみは社会復帰を目指して頑張ろうと決意する.


不思議な感覚の作品である.現実のようで非現実.まなみと一緒に暮らすみきは,恋多き女(すべて片想い)で,恋をするごとに魚を飼い始める.そして,魚の死とともに恋の記憶は忘れるのである.
あきえは,ときどき三輪車を盗む癖がある.帰宅時に片手で三輪車を握りしめ,夕食のときでも手放さないあきえの姿は,非現実的である.

まなみも,両親のことをさん付けで呼んだり,あるいは幻覚を見たりと,現実と非現実の間を揺れ動いている.

本作は,全体を通じてメルヘンチックな雰囲気がある.どこか少女趣味的な雰囲気がある.文体も,擬音語を多用した独特のもの.個人的には,こういう文体は締まりがなくて好きではない.

三並夏氏のときも書いたが,早熟な作家はいないとバルガス・リョサは云った.本書の著者は,デビュー当時17歳.正直,デビューには早すぎたような気がするのである.実際,2006年の本作以降,作品は書かれていない.もっと熟成してからデビューした方が,作家自身にも,読者にとっても幸せなことではないのか.