読書記録<おひるのたびにさようなら>

おひるのたびにさようなら

おひるのたびにさようなら

第45回文藝賞受賞作.
昼に会社を抜けだし,耳鼻科の待合室に紛れ込んで昼ドラを見る真司.ドラマの筋書きを,会社の同僚福田と水野に話す.

ところが,昼ドラのはずの世界は,登場人物・莉加の内面を描くことで俄にリアリティを帯びてくる.むしろ,真司のいる世界よりも現実的になってくる.昼ドラの中で,莉加役を演じる加川みどりの世界まで描かれる.

虚構と現実の世界を行き来して,次第にそれらの区別が曖昧になってくる.現実かと思えば,虚構になる.物語の最後にも大きな仕掛けがある.これによって,一体何が現実なのか分からなくなるのである.

物語が語られる経緯が,別の物語によって与えられている,枠物語という形式の作品.物語の物語.ひとつの世界の話が終わるとき,それらがまったく違う世界なのに,次の世界の冒頭では共通の事柄が描かれていて,うまく融合していく.

このような平行世界的な作品の作り方は,村上春樹を思わせる(私は村上春樹をわずかしか読んでいないが).