読書記録<わたしは英国王に給仕した>
わたしは英国王に給仕した (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)
- 作者: ボフミル・フラバル,阿部賢一
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2010/10/09
- メディア: 単行本
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チェコの代表的作家ボフミル・フラバル著.
百万長者になることを夢見るチェコ人の若者が,給仕見習いからスタートして,各地の高級ホテルを渡り歩きながら百万長者になる.途中,ナチス・ドイツによるチェコの保護領化,政治体制の変化により,彼の人生はめまぐるしく乱高下する.
物語の体裁としては,主人公のチェコ人の若者が縦横無尽に語るという形式である.とにかく濃密にエピソードが並べられる.ただ単に並べられるのではなくて,そのエピソードがすべて一人の人間に起きたこととしてまとめ上げられているのである.
巻末の解説も大変有益なものである.まず著者のボフミル・フラバルの経歴が簡単に述べられている.その後に本作の解説が続くが,フラバルがどのように作品を書き上げたのか,著者本人の言葉を引用して述べられる.フラバルは,一気呵成に作品を書き上げる作家で,推敲などはほとんどしないらしい.そのために,タイプミスも多く,かつ改行が少ない.本書は,訳者と編集者が相談して適宜改行したらしいが,それでも改行が少なく文の密度がかなり高い.読後の疲労感はかなりあるだろう.
解説では,フラバルの創作方法も簡単に述べられている.フラバルの作品では,「パービテル」というキーワードがあるらしい.これはフラバルの造語で,滔々と話す人(想像力豊かな話し手)という意味である.本作の語り手もまたパービテルである.
フラバルは,1997年,入院中の病院で鳩に餌をあげようとして5階から転落,死去した.実にセンセーショナルな最期である.