読書記録<平安残酷物語>

平安残酷物語 (講談社BOX)

平安残酷物語 (講談社BOX)

講談社BOXより刊行.著者は日日日(晶:あきら).

時代は,昭和,平成を経て平安に入った.街は荒廃し,奇怪な化け物や,人を喰らう蟲たちが跳梁跋扈している.世界は,桃色の波濤に襲われ,大人たちはほぼ絶滅した.あるいは猿になった.生きているのは子供ばかり.こずえは,平安貴族である.貧乏貴族である.毎日部屋に引きこもって自堕落な生活を送っている.友人の小春や,ペットのガノンドロフとのんびりとした生活を送っている……わけではない.

一見してひきこもりニートの話かと思ったのだが,読み進めるうちにその印象は見事に払拭された.これはひどく歪んだ話である.短編が36編連なっていて,「平安時代」が描き出される.どこまでが現実で,どこからが幻想なのか分からない.読者は,不安定な幻想の世界を彷徨することになる.それぞれの話は,いかにも安佚な様子をしているが,ほぼすべて残酷な結びになっている.表紙や挿絵にだまされてはならぬ.また,終盤になって,本作での物語が物語の中の物語かとも思わせる編がある.本書自体に自己言及する編があるのだが,これも幻想の中に溶け込んでしまって,結局構造は散逸してしまう.

著者の日日日氏は,高校在学時に5つの賞を受賞してデビューしたという.速筆な作家で,若干25歳(2011年現在)にして多くの作品を世に送り出している.本書と同時に刊行された『のばらセックス』も読む予定.