読書記録<ジル・ド・レ論>

二見書房から刊行されているジョルジュ・バタイユの著作集のうちの一つ.

ジル・ド・レは,15世紀フランスの封建貴族であり,フランスの陸軍元帥を務めた.子供を自らの城に招き,喉を切り裂いて子供が苦しむ様を見て笑ったり,子供を男色の相手としたり,残虐の限りを尽くした.このような非道が露見し,裁判に掛けられ,処刑された.

ジル・ド・レの住まったヴァンデおよびブルターニュの両地方では,シャルル・ペローの「青髭」とジル・ド・レが混同されているという.両者の間には,何の共通点もないらしい.バタイユによれば,ド・レの罪業の記憶がぼやけていくに従って,民衆の想像心の中で青髭の伝説と混じり合うようになったということらしいのである.

本書では,バタイユによるジル・ド・レ論,年代記,さらには,ド・レが生きた中世という時代,百年戦争ジャンヌ・ダルクについての付録も収録されている.本書からは,中世がいかに野蛮で暗い時代だったかがうかがい知れる.当時の封建貴族は,かなり傍若無人で暴力的だった.旅人の荷物を略奪する行為さえしていたようなのである.ジル・ド・レの生きた時代は,封建時代のまさに終末期だった.フランス各地に諸侯が領土を持ち,各々が強大な権力を持っていた.フランス王もいたものの,王権は弱かったそうである.しかし,英仏の百年戦争の終わりとともに王権は強まり,中世時代は終わった.ジル・ド・レのような古代的封建領主は退場せざるを得なくなった.

現在,『Fate/Zero』というアニメが放送されている.原作は小説で,星海社から全6巻が発売されている.まだ小説には目を通していないが,この作品にはジル・ド・レが登場する.私は,近頃,何かの小説でジル・ド・レの名を目にした(どの小説だったか思い出せない).当時,それが何なのか分からなかったのだが,『Fate/Zero』によって人物の名であることを知ったのである.私は,不思議と興味を引かれ,バタイユのジル・ド・レ論に行き着いたわけである.もともと,バタイユの他の著作を読んでみようと思っていたところへ,ジル・ド・レが符合して本書を手にとったのであった.バタイユの著作は,他にも興味深いものが多いので,順次読んでいきたいと思っている.ちなみに,『Fate/Zero』の劇中では,キャスターとしてのジル・ド・レは,セイバーをジャンヌだと勘違いし,強い執着をみせる.ところが,バタイユは,ジルはジャンヌに対してそれほど強い関心は持っていなかっただろうと云っている.民衆の間でのジャンヌの人気にあやかるため,ジャンヌの傍らにいるほうが得策だという程度にしか考えていなかっただろうとも述べている.
そして,これはまったくの余談になるが,私はセイバーの大ファンになってしまった.頑張って欲しいものである.