読書記録<タシュンケ・ウィトコ>

異界兵装 タシュンケ・ウィトコ (講談社BOX)

異界兵装 タシュンケ・ウィトコ (講談社BOX)

講談社BOXより.Powers BOXと同じ装丁であるが,BOX AiRというシリーズに含まれる.現在講談社BOXの新人賞はPowersとAiRの2種類がある.違いは,前者が小説で,後者がアニメ化を前提にした作品であること.AiRは原稿枚数が少ない.はじめは電子書籍に連載が行われ,ある程度書き溜められたら書籍化されて発売される形式を取っている.

本書のあらすじとしては,異界から訪れた巨大馬型ロボットが人間の女性に恋をするというもの.長らく眠っていたロボットは,貴志範子との出会いで目覚める.時を同じくして,異界研究の天才・長木が10年ぶりに異界から戻ってくる.長木を追って異界から現れる人型ロボットと,馬型ロボット「タシュンケ・ウィトコ」は戦う.

本作の語り手は,馬型ロボットである.この視点は珍しい.
著者・樺薫氏には詩歌の教養があるらしい.各章のはじめにはエピグラフ(歌,詩,引用)が置かれている.第1章のエピグラフには,藤原定家による,本歌取りの技法を用いた「駒とめて袖うちはらふ影もなし 佐野のわたりの雪の夕暮」が置かれている.あとがきによれば,深い理由もなく選んだものだということだが,これが本作における本歌取り的技法の宣言になっているらしい.

作品の長さから云えば,本作は中編小説である.異界,ロボット,登場人物の関係など,押さえるべきところは押さえた手堅い作品であると思う.しかし,どうにも読みにくい.まず,それほど長い作品ではないのに,登場人物が多すぎると思った.一人一人を描写する余裕がなく,誰が誰だか分からなくなる.また,何を云っているのか分からない箇所がいくつかあった.著者の教養がにじみ出ている作品だけに,これらの点は残念であった.

タイトルのタシュンケ・ウィトコは,インディアン・ラコタ・スー族の戦士クレイジー・ホースの本名にちなむ.すなわち,タ・シュンカワカン・ウィトコ(彼の奇妙な馬)である.あまり馴染みのない音で,タイトルとしてはなかなか良い出来だと思う.