読書記録<図書館 愛書家の楽園>

図書館 愛書家の楽園

図書館 愛書家の楽園

著者のアルベルト・マングェルは,アルゼンチン出身で在仏の作家・読書家・愛書家.若い頃,ボルヘスと出会い,目を患っていたこの老作家に本の朗読をする仕事を引き受けたという.

本書は,愛書家である著者が図書館および書物をテーマにして縦横無尽に語ったエッセイである.著者の書斎(フランスにあるこの書斎は,蔵書3万冊を抱えるらしい)からはじまり,失われたアレクサンドリア図書館や古代ローマの図書館,現代の図書館,架空の図書館(ウンベルト・エーコ薔薇の名前』に出てくる修道院の図書館や,ボルヘスの『バベルの図書館など』)に至るまで,ありとあらゆる図書館について言及する.

行間からは,書物への著者の愛が感じられる.私も書物が好きで,部屋の中は増殖する本により日々圧迫されている.愛書家の悩みの一つが,書物を保管する空間である.書物はどうしても空間を占有するから,現代のように大量の印刷物が発行される時代では,すべての書物を永久保管するのは難しい.保管スペースの限界を迎えた図書館が蔵書をやむなく処分する事例を,著者は悲しんでいる.近頃では,電子書籍など,電子媒体に書物を落とし込むこともできるが,著者は電子媒体のもろさについて言及している.ハードディスクなどに記録された情報は,長くて10年ほどしか保持できない.CDにしても10年で情報が失われてしまう可能性がある.これには,『ドゥームズデイブック』(土地台帳)の実例を挙げている.イギリスBBCは,電子版のドゥームズデイブックを作成し,特別なコンピュータで読み取るレーザーディスクに記録した.ところが,数年後,一台だけ残ったコンピュータで情報を読み取ろうとしたら,できなかった.復旧は絶望的だそうである.一方,1000年前にインクで紙に書かれたドゥームズデイブックは現存している.

私の大学には,いくつかの図書館が存在する.各学部・研究科,付属施設に付属の図書館(もしくは図書室)があるし,大学全体でも総合図書館がある.学内の蔵書を検索して取り寄せることもできる.大学図書館を利用する機会はあまりないが,古い文献を見たいときには役立つし,絶版本を閲覧したいときにも便利である.総合図書館は,古い建物で,概観・内装が多分に装飾的な場所である.図書閲覧室の天井にシャンデリアがあったりする.

三雲岳斗ダンタリアンの書架』は,幻書とよばれる魔道書を巡る物語で,ダンタリアンの書架という,迷宮図書館が登場する.幻書900,666冊を納める幻想の図書館である.主人公は,ビブリオマニア(蒐書狂)だったディスワード子爵の孫・ヒューイ,そして迷宮図書館の管理人である少女ダリアン.アニメ化された作品で,書物の匂いが立ちこめる良作である.
桜庭一樹GOSICK』シリーズのヒロイン,ヴィクトリカ・ド・ブロワは,聖マルグリット学園の大図書館で書物を読みながら過ごす.巨大な図書館のどこにどの本があるかを彼女は把握している.
京極夏彦の小説の登場人物・中禅寺秋彦は古本屋で,書痴であり,彼の家は書物により占領されている.
折口良乃『死想図書館のリヴル・ブランシェ』では,失われた書物を所蔵する図書館と,危険な魔道書が登場する.
鎌池和馬とある魔術の禁書目録』には,10万3000冊の魔道書を記憶する魔術師の少女が登場する.この少女こそが,魔道書図書館なのである.

このように,図書館・書物が登場する作品を挙げていくときりがない.講談社第45回メフィスト賞を受賞した『図書館の魔女』という作品があるのだが,いまだ発刊される気配がない.かなり浩瀚な作品らしい.早く読んでみたいものである.