読書記録<書物の敵>

書物の敵

書物の敵

英国の書誌学者ウィリアム・ブレイズが1880年に刊行した著作.内容は,タイトルの通り,書物の敵について.

火,水,ガス,熱気,埃,粗略,無知,紙魚,害獣・害虫,製本屋,子供などなど,書物の敵は多い.

先日読んだアルベルト・マングェル『図書館 愛書家の楽園』にも紹介されているが,伝説的な(しかし実在した)アレクサンドリア図書館は,火によって失われた.『書物の敵』訳者による解題によれば,日本でも同様の事態が起こっている.1923年の関東大震災の折,本郷にある東京帝國大學の総合図書館の蔵書80万冊が炎によって灰燼に帰した.本を愛する人にとっては,本当に痛ましい事件である.

今年3月に発生した大地震の際も,津波によって多くの人命とともに,多くの書物が失われただろう.あるいは,阪神・淡路大震災の際には,火災によって書物が失われただろう.

書物を大量に抱える者にとって,火や水の災害は本当に恐ろしいものである.また,日本は地震の多発国であるから,揺れによる物理的損傷の危険が常にある.埃や湿気から書物を守るのも,容易ではない.

現代では実感がないことだが,著者のブレイズが生きた時代は,ヴィクトリア朝の英国であって,いわゆるメイドが実在した時代である.メイドは,暖炉の火を熾すのに貴重な本を燃やしたらしい.これが,キャクストン本というもので,15世紀のイギリスで印刷された初期の活版印刷本である(グーテンベルクによる活版印刷発明以後,15世紀までに印刷された本をインキュナブラと云う).インキュナブラは非常に貴重であって,かなり高額で取引される.それを暖炉の火熾しに使うというのは本当に恐ろしいことである.無知のなせる技である.

紙魚,鼠などの害獣・害虫の類もまた恐ろしいが,現代の日本ではあまり見かけないような気がする.もっとも,一般家庭に出現する害虫で最も厭な油虫(ゴキブリ)は本をかじるようなので要注意である.

私は,書物の内容だけでなく外見までも愛する,いわゆるビブリオフィリアであるから,蔵書は大切に扱う.折り目を付けぬように,汚さぬように,傷をつけぬように,慎重に読む.蔵書は他人に貸したりしない.家族であっても,蔵書に触れさせたりはしない.周囲の人間をみていると,書物を粗略に扱う人間が多い.頁が折れていたり,表紙が傷ついていたりしても,彼らはいっこうに気にしないらしい.私には理解できぬことである.高校時代,数学の教科書を雨に濡らしてしまって,頁が歪んだことがあった.私は非常に心を痛めたものである.それ以降,数学の教科書は,専用の紙製の箱を作り,損傷を防いだ.しかも,同じ教科書を2冊購入して,1冊は保存用としたのである.今も,新品の数学Ⅱ・Ⅲの教科書が実家に眠っている(数学は最も好きな科目だったので,教科書への愛着も他の科目に比べて一段と強かった).

大学で気に入っている教科書は,医学書院の『標準組織学』である.これは,他の標準シリーズがソフトカバーなのに対して,いまだハードカバーの箱入りという重厚な装丁の本である.内容も古風な雰囲気が漂っていて,好きである.総論と各論の2冊があるが,最近各論の新版が出た.最新の知見が盛り込まれている.

本書『書物の敵』の訳者は高橋勇氏で,当時慶應義塾大学文学部助手である.監修は,慶應義塾大学文学部教授の高宮利行氏である.高宮氏は,現在は名誉教授になられているのだが,アニメ『ダンタリアンの書架』の特番「序章〜共犯者たちの証言〜」に出演されている.そこで,ビブリオマニアについて語っている.この特番は,アニメの序章という位置づけであるにも関わらず,大学教授らが出演し,学術的な視点から『ダンタリアンの書架』を解題するという珍しいものであった.

ついでに標準組織学を載せておく.

標準組織学 総論

標準組織学 総論

標準組織学 各論

標準組織学 各論